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12月5日公開 台湾・シンガポール・ポーランド合作映画『ピアス 刺心』。ネリシア・ロウ監督トークイベントQ&A


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映像分野における「次世代の巨匠」を育成することを⽬的とした「タレンツ・ トーキョー」。11 月8 日(土)、9 日(日)2020修了生であるネリシア・ロウ監督が来日し、公開に先立ち『ピアス 刺心』が東京都写真美術館ホールにて先行上映されました。


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ネリシア・ロウ監督はフェンシング代表として活躍した異色の経歴をもち、短編『Freeze』が世界70を超える映画祭 で上映され長編デビューが待ち望まれた若き俊英。『ピアス 刺心』は、台湾で実際に起きた事件と監督自身の兄との家族関係に着想を得て、フェンシングを題材に美しき兄弟の愛と疑念が対立する傑作心理スリラーを生み出しました。


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上映後、ネリシア・ロウ監督のトークイベントが行われました。


Q、タレンツ・トーキョーに参加されたときはコロナ渦中でリモート参加だったと思いますが、その時の印象を教えてください。また今作『ピアス 刺心』はシンガポール・台湾・ポーランドの3ヵ国合作映画ですが、どのようにしてこの共同制作に至ったのかを教えてください。


ネリシア・ロウ監督(以下、監督):まずそのタレンツ・トーキョーに関してお話します。2000年、コロナ渦中にタレンツ・トーキョーに参加しました。その時はこの『ピアス 刺心』の映画を作るためにシンガポールから台湾に飛び、2週間の隔離期間中でした。その隔離期間中に参加したのはZoom参加でしたが素晴らしいメンターの方にもお会いできましたし、また素晴らしい参加者の方々にもお会いできて私にとってはとてもためになるワークショップでした。本当にアジアでこんなに監督をサポートしてくれる機会というのはなかなか無く、タレンツ・トーキョーが唯一のフィルムメーカーではないかと思います。私の次回作もタレンツ・トーキョーが開発費を出してくださいました。


今作は台湾・シンガポール・ポーランドの合作ですが、台湾で撮影することが決まり台湾と組むことになり、本物のアートというものを作るためにポーランドと一緒に組みました。やはり本物のアートというのは深く深く作品を掘り下げなければいけないと思いました。ポーランドの方々と組めることになって本当に良かったです。


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Q、エンドクレジットの最後にご家族と特に兄弟の方に賛辞をあげていましたが、監督自身の兄弟像や兄弟をテーマに今回の作品を撮影した意図を教えてください。


監督:私の兄は自閉症ですが、子供の頃は兄が自閉症とは知りませんでした。兄と私の関係がわたしの人生の中で初めての心の痛みとなりました。自分が映画を作るのであれば1作目は兄の話にしようと思っていました。


私が5歳の時に親に反抗して家出をしようと思ったことがありました。その時に兄に一緒に来てと言ったら、一緒に行くと言ってくれたので、2人分の荷造りをし父に兄と一緒に家出をすると伝えました。そしたら父が「本当に兄が一緒に行くって言ったのか?」と聞いてきたので、父と一緒に兄にもう1度確認に行きました。そして私が問いかけると兄は一緒に家出すると言いますが、父が確認すると行かないと言いました。何度聞いても同じ答えが返って来ました。その時私は衝撃を受けました。兄は自分が思っていたような人じゃなかったんだということに気づきました。それまでは自分の手を兄が握ってくれていると思っていたんですが、実は握ってたのは私の方だったんですね。家族は兄がいつ逃げ出してしまうかといつも心配してたので、兄を守るために、逃げないように兄の手を握っていたのは自分だと気づきました。結局“優しい兄”というのは自分の頭の中の幻想だと気づきました。それが最初の心の痛みでした。


この映画は脚本を書くのに5年間かかりましたが、書き始めてすぐに最後のエンディングは決まっていました。弟が兄のための犠牲になる。それは愛情というよりもっと深いものだと思っていまして、そういうエンディングにすることを決めてました。ですからこの映画は私のパーソナルな映画です。兄に対する私の妄想があったということが基なっていますし、自分が愛する人のことを本当に自分はわかっているのか?知っているのか?という問いもあります。また自分がその人を愛することでその人に何らかの影響を及ぼせるのか?そういう問いもこの映画には詰まっています。


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Q、終盤で大惨事が起こり弟のなかでは兄がサイコパスだということがわかったにも関わらず弟は兄を庇いました。その時の小道具としてフェンシングの防具(マスク)を使用し顔を隠したのかと思いますが、この部分の監督の意図をお聞きしたいです。


監督:フェンシングの大会前に弟が兄は殺人犯だと言います。その言葉がなければあの大惨事は起きなかったわけです。私は兄と弟の感情的な関係をこの映画で見せたかったのです。兄役(ジーハン)を演じた、ツァオ・ヨウニンは役をとても理解してくれました。『Written on the Body』という英語の本があるんですが、その本には人は自分の愛する人が自分のことを表現したようになるという言葉があります。それと同じで、ジーハン(兄)は最初はジージエ(弟)のことはどうでもよかったのです。自分が殺人犯だろうがなんだろうがどうでもいい。人にどう思われようがどうでもいいという人だったんですけれども、出所して弟と関わり合うようになって、ジージエ(弟)が自分のことを完璧な兄で憧れていて殺人犯なわけがない。そして自分のことを愛してくれてるはずだとジージエ(弟)が思っているということを知ります。そのことが結果ジーハン(兄)にも影響を及ぼします。しかし、そのジージエ(弟)に殺人犯だと言われたことで最後の一本の糸が切れてしまったような感じになります。ですから、ご質問で最後ジーハン(兄)がサイコパスってわかるって言っていましたが、他人の言うことなんかどうでもいいと思っていた人が、ジージエ(弟)にどう思われるかを気にする人に変わったということで、私にとってのエンディングは悲劇的ながらもポジティブなエンディングだと思っています。


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マスク(フェンシングの防具)のことは、マスクをつけていたらどうだ、外していたらどうだという事は考えていませんでした。マスクはメタファーとして使っているんですが、世の中の人はみんなマスクをつけていると思います。仮面をつけているという意味で使いました。一番私にとってポイントなのはこの映画の最後ですね。ジージエ(弟)がジーハン(兄)のマスクを取るシーンがありますが、そこで初めて兄の本当の顔が見える。普段はマスク(仮面)をつけていますが、仮面を外した本当の兄の顔(感情)が見えます。そこが私にとってはポイントです。ですので、マスク(防具)は、人間なら誰でもつけている仮面という意味で使いました。


Q、監督はフェンシング経験者ですが、今回の映画にどれぐらいの実体験を、あるいはヒントのもとにしているんでしょうか。例えば試合中に相手を怪我させたのが故意なのか事故なのか分からないという、そういう事は本当にあったんでしょうか?


監督:先程、脚本を書くのに5年かかったと伝えましたが、この兄弟がフェンシングをやっているというのは最後の方に決めました。兄のキャラクターが、すごく賢くて、人を操作するような、全て先読みして、自分が欲しいものは、確実に手に入れるような、そういうキャラクターでしたので、脚本を書いている最後の方でフェンシングがぴったりだなと思って入れました。フェンシングは、剣で戦うチェスという風にも言われていますので、ちょうどいいと思いました。質問は、私の実体験が入っているか、ということですけれども、私はフェンシングの選手でしたので画角を決める時に、もしフェンシングをやっていない方だったら、ご存知の通りフェンシングは人が右と左に離れて立っていますので、もう少しワイドなアスペクト比で撮影したと思います。


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でも、私はフェンシングをやっていたのでフェンサーが見る世界のままに撮りたいと思ったので、少し狭めの画角フレームにしました。この映画は結局、弟の主観的な部分、弟の目線から撮った映画で、客観的に弟を撮るものではなかったので弟が見える世界のように映画を撮りたいと思ったので、このフェンシンは離れすぎても近すぎても行けない。それが兄弟の距離にも反映されていました。

あとフェンシングの剣が折れるという事は、実は2年に1回ある程度です。ただ自分の経験としてこんなことがありました。フェンシングの大会に出た時に自分の試合が終わって少しベンチに座って待っていたところ、チームメイトが隣に来ました。その時他の人のバックに入っていた折れた剣に気づかず足に刺さってしまい悲鳴を上げましたが、周りがうるさすぎて、隣の私に全く聞こえなかったんです。フェンシングの大会はみんなものすごく叫ぶのですごくうるさいんです。経験はサウンドデザイン、音響に取り入れました。一番最後のシーンですね。兄がいろんな人を刺し始めるんですけれども、周りは最初は気づかないんです。


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Q、最後の質問です。もし、今、新作を準備したら、どんな作品を撮ろうと思っているのかお聞かせください。


監督:新作は、いま3つのプロジェクトが動いています。1つは、広東オペラを題材にしたミュージカル映画です。アメリカで作る予定です。もう1つは、タレンツ・トーキョーが援助してくださっているプロジェクトで、韓国で作る予定です。台詞のないダンス映画です。

そしてもう1つがコメディーです。クレイジーな感じのコメディーです。楽しみにしていてください。最後に、メッセージをお伝えします。『ピアス 刺心』は日本では12月5日から映画館で公開されます。ぜひ、ご家族や兄弟、お友達と観に行ってください。今日はありがとうございました。



(text:Tomoko Takeuchi)



2025.12.5 新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開


公式サイト:https://pierce-movie.jp

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