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東京国際映画祭 コンペティションファン・ビンビン主演『母なる大地』。上映後のQ&Aと囲み取材

更新日:11月13日


第38回東京国際映画祭で、ファン・ビンビンがこれまでのイメージを一新するヒロインを演じたマレーシア映画『母なる大地』が上映された。

上映後に、監督チョン・キット・アン、俳優ファン・ビンビンを迎えてQ&Aがおこなわれました。


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まず冒頭にそれぞれ挨拶がありました。


チョン・キット・アン:こんにちは、監督のチョン・キット・アンです。みなさん お越しいただきまして 本当にありがとうございます。


ファン・ビンビン:みなさんこんにちは。今回来日することができてとても嬉しいです。そして東京国際映画祭でみなさんと一緒にこの映画を観ることができて本当に嬉しいです。本当にありがとうございます。


その後、Q&Aと囲み取材がおこなわれました。


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Q.監督に質問です。歴史的背景を知りたいと思わせてくれる映画でした。なぜ、この作品をこの場所で撮ろうと思ったのでしょうか?


チョン・キット・アン:映画の舞台は私の故郷、マレーシアのケダ州です。古代はシャム王国の領地でのちに英国の植民地になりました。実はこの土地の問題はいまだに解決されていません。

私が小さい頃には、ケダ州にはたくさんの呪術師がいました。 すごい技を持っている伝説的な女性の呪術師の話を聞き、いろいろな呪術師にインタビューをしたりリサーチをしました。どうやらその呪術師はある日突然消えてしまったようですが、そういった物語が現地にはたくさんあります。私はこの映画で、自分を犠牲にしても自分の家族、自分の土地を守ろうとする、そういう勇敢な女性を描きたかったのです。だから、とても優しい気持ちでこの映画を作りました。


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Q.監督に質問です。なぜこの作品をつくろうと思ったのか、ファン・ビンビンさんを起用しようと思ったのか教えてください。


チョン・キット・アン:この作品はデビュー以来4作目になります。私はマレーシアでは全て現地の物語を撮ってきましたが、マレーシアの映画界にはたくさんの人がいて、みんなできるだけ海外の人と、あるいは海外のテーマで映画作りにしようという希望があります。でも、私自身の手がけた作品は、脚本も物語もマレーシアとタイの国境地帯やマレーシアの歴史に関する作品です。

私は時間があると音楽を聴いたり、本を読んだり、映画を観てフィールドリサーチをします。そして脚本を書きます。周りによく監督は仕事が早いのですぐ脚本ができると言われるんですけれども、そうではなくて実は書き溜めしているんですね。この映画もそうなんです。本当はあと8〜9年後に撮影し、8〜9作品目として考えてました。1作目から7作目までの集大成にしようと思ってたんです。そう考えていたとき、確か2000年のクリスマスの1週間前に、ファン・ビンビンから会いたいと電話がかかってきました。そこから数回連絡をもらっていたんですが、なかなか会えずやっと会うことができた時は、ほとんど寝ないまま朝9時頃会いに行きました。そのとき、口頭で『母なる大地』の話をしました。そして彼女からぜひ、監督と仕事をしたいと、中国の女優として東南アジアの女性を演じてみたい、この作品を私のためにとっておいてほしいと言われました。

実は『母なる大地』は2018〜2019年に1度撮影しようかと考えていました。その時は役者は全員素人を集めて撮ろうと思っていたんです。私は今まで、スターと仕事をしたことがないんですね。ファン・ビンビンはすごい美人なのでこの役は難しいんじゃないかなっと思い、1つ条件をだしました。あなたのこの美を、容姿を、全部壊しますが、大丈夫ですか?と。なぜこんなことを言ったかというと美人女優の多くは、自分の美しいイメージを壊されてしまうのであればやらないと思ったんです。でも、彼女は「大丈夫です。監督に合わせます」と。その後、彼女に『母なる大地』の脚本を渡して、約1カ月経ったころチャレンジしたいと返事が来ました。


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私は当時この映画は容易ではないと思いました。相当忍耐力がないと耐えられないと思いました。まず、現地の言葉を勉強しなければならない。真夏に田んぼで田植えをしたり、草むしりをやらなければならないし、呪術師の呪文を書くとか唱えなきゃいけない。やらなきゃいけないことが盛りだくさんなんです。この話を彼女のマネージャーにしたら、「彼女はどんなことでもチャレンジしますから大丈夫です」と言われました。そんな過程を経て私は彼女を主演にしようと考えました。そこから私たちは約半年、時間をかけていろいろな準備をしました。まず、”顔”を作らないといけない。デザイナーを何人か変え、最終的には香港でお願いしたい人が見つかりました。作品の舞台はタイとマレーシアの国境地帯なので、現地の人たちの顔の特徴があるんですよ。鼻とかね。私の父親母親もそうなんですが、鼻が割と大きい。そういう特徴を伝えマスクのような物をつくってもらいました。つまり、彼女の顔を完全に変えてしまうということなんですよね。あとは言葉の問題があるわけですよね。これはオンラインで何度も伝えて・話して・直してを行いました。また彼女は作った“顔”のマスクも受け入れてくれました。そうして彼女をケダ州に招いて、私たちは小さな田んぼを借りました。田舎の人にお願いして、毎日朝田植えのやり方や出道をどう歩くか、そういったことを全部教えてもらいました。80年代の当時田んぼを耕すのに、水牛が使われていたので水牛も買いました。


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Q.ファン・ビンビンさんに質問です。1回目のトークセッションで、ファン・ビンビンさんは監督へこの台本を自分のためにとっておいて欲しいと伝えたと話していました。そこまでこの作品に惹かれた理由を教えてください。


ファン・ビンビン:15年前の話になりますが、私は初めて東京国際映画祭にエントリーされて主演女優賞を取りました。当時韓国で映画を撮影していたため、東京国際映画祭に来る事が出来ませんでしたが、知らせを聞いた時はとてもすごく興奮しました。この東京国際映画祭は国際的に大変重要な映画祭の一つだと思っています。特にこのコンペ部門に参加する作品は世界各地の素晴らしい作品しか参加ができないと思っています。だからこのような映画祭で受賞できたことはとても嬉しく光栄だと思っております。

15年前、受賞した時に私は決心しました。俳優として、これからどういう役を演じ、どういうものを表現していくのかと。だからある意味あの時の受賞は私にとっては非常に大きな励みとなっています。

15年経ち、この作品で再び私は東京国際映画祭にやってきました。この作品は人間の情感の部分をとてもよく表現しています。非常によくできている話なんですね。私が演じた女性ホン・イムは、見た目は決して美人ではないし、歳もとっています。だからみなさんが今まで見慣れてきたファン・ビンビンの外見とは全く違うそういう役柄だと思います。この役柄について監督といろいろな話をしました。



実は監督からこの映画の内容を聞いた時にこの人物にとても魅了されました。なんとなくどこかで自分自身の今の心境とも似ていて非常に近く、だからこの役柄を演じることによって私はホン・イムからたくさんの力をもらいました。そして私も一生懸命演じた結果ホン・イムという役柄にもいろんな力を与えることができました。


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先ほど監督も言っていましたが、この作品はある種の優しさを持っています。私が思うのは優しさは実は一番強い。そういう気持ちもこの役作りのときに心の中に込められていたと思います。監督はこの作品をおそらく2028年もしくは2029年に撮影すると言っていましたが、私は「もう少し前倒しにしたい。そして私のためにこの役を取っておいてほしい」と伝えました。初めは難色を示していた監督も交流を重ねていくうちに次第にファン・ビンビンだったらこの役をお願いしても大丈夫かなと思うようになったと思います。この作品は本当に監督のスタイルをよく表している素晴らしい作品だと思います。この映画撮影にあたって監督は物語だけではなくて音響や音楽、映像、ビジュアルにもこだわっています。そのような素晴らしい映画に参加することができて本当に大変嬉しく、そして光栄だと思っております。 


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Q.ファン・ビンビンさんに質問です。役作りはどのようにされましたか?


ファン・ビンビン:成功した理由は監督の手腕だと思います。私は東南アジアの歴史、人物などそういったものに詳しくないので、監督がこの物語の詳細をいろいろ語ってくれました。例えば、それぞれの時代にどういったバックグラウンドがあったのか、そういった話も全部聞きました。そして一番難しかったのは、言葉ですよね。そこも監督がすごく助けてくれました。そして一生懸命勉強しました。



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Q.監督に質問です。撮影をしている時にファン・ビンビンがこの役にぴったりだなと感じたことは?


チョン・キット・アン:撮影前に2週間ぐらいかけてリハーサルなどをやって、それで撮影に入りました。そして実は私の父親が黒魔術の呪術師なので父親について呪文を書くとか呪文をどう唱えるのかとか、いわゆる仕草だとか、そういったものも全部教えてもらっていました。彼女はとても一生懸命ですごく飲み込みが早かったです。

本番の撮影の時は、我々は心配しました。蛭がいたり蛇がいたりいろいろな虫がいる田んぼに彼女が入らなければならないからです。いろいろな準備をしましたが、彼女は全然気にせず田んぼに入って、一生懸命この役を演じました。1つエピソードをお伝えします。初日、畑仕事や田んぼのシーンの撮影をした時、当然爪の中に泥が入ってしまいます。ところが次の日現場にやってきた彼女の手を見ると爪の中に泥が入ったままでした。「洗ってないの?」と聞いたら、この方がやりやすいと思ったのでと言っていました。こうやって一生懸命撮影をおこないました。


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(text&photo:Tomoko Takeuchi)



作品解説

1990年代末、タイとの国境に近いマレーシア北部、複数の民族が共生する農村地帯。夫に先立たれたホン・イムは、日中は農作業を行い、夜は呪術を用いて病に苦しむ村人たちを助ける日々を送っている。不可解な出来事の連鎖の末、ホン・イムは夫の死にまつわる知られざる事実を知らされる…。前作『幼な子のためのパヴァーヌ』が2024年東京国際映画祭「アジアの未来」部門で上映されたチョン・キット・アンの新作は、チョンが幼少期を過ごした農村地帯をリアリズムと幻想を混交させて描いた作品である。『ブッダ・マウンテン』で2010年東京国際映画祭・最優秀女優賞を受賞した大女優ファン・ビンビンがこれまでのイメージを一新するヒロインを演じている。


作品情報

監督チョン・キット・アン [張吉安]

スタッフ

監督/脚本/作曲:チョン・キット・アン

プロデューサー:ウォン・キュースン

プロデューサー:ステファノ・チェンティーニ

プロデューサー:ゾーイ・テン

撮影監督:リョン・ミンカイ

音響:ドゥー・ドゥージー

音響:フィオナ・チャン

美術:スン・ヨンチャオ

衣装:エレイン・ウー

編集:エリック・モー

作曲:イー・カーホー

キャスト

ファン・ビンビン

ナタリー・スー

バイ・ルンイン

パーリー・チュア


クレジット:©2025TIFF

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